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特許の権利化に時間が掛かるタイ。そんな時は他国の審査結果を利用【タイの知的財産権コラム第3回】

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 今回はタイの特許制度のうち、特に出願後~審査請求を経て、権利化に至るまでについてを中心にご説明します。

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タイは審査請求に時間がかかる。日本との制度の違い

 日・タイいずれにおいても、特許は出願しただけでは自動的に審査はされません。出願の後一定期間内に「審査請求」という手続を行って初めて、特許権を付与するかどうかの審査が開始されます。審査官の人数や審査能力には限界がありますので、真に権利化の必要がある出願のみを審査させることにし、特許庁の審査の負担軽減を図っているのです。

 この審査請求手続は、日本においては「出願から」3年以内に行う必要があります。一方、タイにおいては「出願から」ではなく「公開から」5年以内に審査請求手続を行う必要があるとされています。

 それでは、特許出願後いつその出願が「公開」されるのかというと、実はタイでは特許出願の公開時期が法定されていません。日本の特許法では、「出願後1年6か月後に公開される」と明確に定められているため、この点は、日本と大きく制度を異にする点といえます。

 これらの違いは、発明について早期の権利化を目指す場合に問題となります。すなわち、早期の権利化を目指す場合、日本では出願と同時に、審査請求を行って権利化を目指すことも可能ですが、タイにおいては、出願と同時に審査請求を行うことはできず、あくまで公開を待って審査請求を行わなければならないため、どうしても審査の開始時期が遅くなってしまいます。

「他国の審査結果」と「小特許」で早期に権利化させる

(1)他国の審査結果の利用

 上記の通り、タイにおける特許出願は、出願公開を待ってからでなければ審査請求できません。加えて、タイの特許庁は、欧米や日本の特許庁に比べ、未だ十分な特許審査能力を有しているとはいえず、審査のスピードも遅いという実情があります(むしろ、これから紹介する「他国の審査結果を利用する制度」を利用しない限り、出願は放置され審査が全く進まないといわれています)。

 そこで、早期の権利化を目指すために、何らかの対応を採る必要があります。その代表例が、PPH(特許審査ハイウェイ)やASPEC(ASEAN特許審査協力プログラム)です。これらはいずれも、他国の審査結果をタイの特許審査に利用しようという制度です。PPHは二国間の取り決めに基づくものであるのに対し、ASPECはASEAN諸国の特許庁間で、特許業務の分担をする制度であるという点において異なります。

 この点、日本とタイの間にはPPHが開通していますので、ある発明について日本で「特許可能」との判断を得られた場合、タイにその審査結果を流用し、審査を早めることが可能です(審査結果をそのまま利用できるように、日本の特許出願とタイの特許出願の「特許請求の範囲」の記載を揃えておく必要があります)。

 ASPECを利用する場合は、比較的審査能力の高いシンガポールにまず出願しておき、その審査結果を利用する場合が多いようです。これらの制度を活用することにより、タイにおいても特許の早期権利化への途が開かれています。

(2)小特許の利用

 上記手段により、タイにおいても特許権の早期取得を目指すこと自体は可能です。しかし、そのためには一旦他国で特許出願をし、その国で「特許可能」との審査結果を得てからその審査結果を流用する、というやや複雑な手続を採ることが基本となります。

 従って、ある発明について簡易な手続での保護を目指したい場合は、特許による保護を諦めて「小特許」での権利保護を目指す、という選択肢があることも頭に入れておいたほうが良いでしょう。

 タイにおける小特許は、日本の実用新案権に相当する権利です。特許出願と異なり実質審査を経ることなく登録になります。この点、日本の実用新案権は、権利行使の際に「技術評価書の請求」という事後的な実質審査を経る必要があるため、やや使いづらい側面があるのですが、タイの小特許にはこのような制約がないため、使い勝手の良い権利となっています。また、日本の実用新案権は、保護対象が「物」の発明(考案)に限定されていますが、タイの小特許は、「物」にかぎらず「方法」もその保護対象としています。

 このように便利な側面をもつ小特許ですが、存続期間が出願から6年と短いことがややネックです(特許権の存続期間は、日タイともに出願から20年です)。また、特許と異なり、進歩性は要求されませんが、新規性を備えていないと無効理由となるため、出願前に新規性の調査は行っておく必要があります。

まとめ

①タイにおいては単に出願しただけでは早期の権利化が難しい

②その問題を解消するために他国の審査結果を流用することが効果的である

これらの2点は重要ですので、タイにおける特許出願をご検討されるにあたって、憶えておいて頂ければと思います。次回は、タイの商標制度についてご説明します。


共同代表 日本国弁護士・弁理士 

永田 貴久

タイにおける商標・特許等の出願、知的財産権の権利行使その他の知財業務のほか、会社設立、労務対応、合弁契約書等の各種契約書の作成、M&A等のタイ法に関するサービスを提供。

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